ALSは、1869年に、フランスの脳神経内科医のシャルコー(1825~1893)によって初めて報告された病気です。シャルコーは、運動がしにくくなって筋肉が痩せてくる患者さんのうち、運動に関係する脊髄の部位にだけに病理的な変化を認めた病気にALSという病名をつけました。日本語でALSは筋萎縮性(きんいしゅくせい)側索硬化症(そくさくこうかしょう)と呼ばれています。英語名が「amyotrophic lateral sclerosis/アミトロフィック ラテラール スクレローシス」なので、その頭文字をとり、エイ・エル・エスALSと略称されています。
「amyotrophic」とは、筋(myo)の栄養(trophy)が無(a)くなって、筋が萎縮(a-myo-trophy)するということを意味しています。「lateral」とは、図2で示すように、脊髄の両側にある側索(lateral fasciculus/ラテラール ファシィキュルス)のことです。
側索には、大脳の運動皮質にある運動神経細胞(上位運動ニューロン)の情報を橋と延髄の脳運動神経や脊髄の前角運動神経(下位運動ニューロン)に伝える垂体路という連絡路(上位運動ニューロンの神経軸索の束)があります。(図1を参照)この側索が硬化(sclerose)していること(図2で左右対称的に白く抜けている部分)から、sclerosisという名がつけられました。
このような経緯から、ヨーロッパでは、ALSはシャルコー病とも言われています。一方、アメリカでは、ヤンキースの往年の打撃王のルー・ゲーリックがALSであったことから、ルー・ゲーリック病と呼ばれています。
日本では、従来から、ALSは運動神経系の変性疾患の一つとして分類されてきました。表1に示すように、運動神経系の障害が「上位運動ニューロンだけか、下位運動ニューロンだけか、またはその両方か」、「下位運動ニューロン障害については、それが脊髄だけか、延髄だけか」で、次の、ALS、PLS、SPMA、PBPの4つに分けられてきました。
- 上位と下位運動ニューロンの両方が障害されるALS
- 上位運動ニューロンだけが障害される原発性側索硬化症(primary lateral sclerosis/プライマリー ラテラール スクレローシス=PLS)
- 下位運動ニューロンの障害が脊髄運動神経細胞だけの脊髄性新厚生筋萎縮症(spinal progressive muscular atrophy/スピナール プログレシーブ マスクラール アトロフィー=SPMA)
- 下位運動ニューロンの障害が延髄の脳運動神経細胞だけの進行性球麻痺(progressive bulbar palsy/プログレシーブ ブルバール パルシー=PBP)
の4つです。
しかし、欧米では、1.~4.を運動ニューロン病(疾患)(motor neuron disease/モーター ニューロン ディジーズ=MND)とまとめています。日本でも欧米のMNDの意味でALSの名称が用いられることが多くなっています。最近では、国際的には、「エイ・エル・エスALS/エム・エヌ・ディーMND」と並列した名称が使われるようになっています。