ALSに罹り9年近く闘病され、昨年11月に嘱託殺人事件の被害者として亡くなられた患者さんに哀悼の意を表します。
患者さんは闘病を続ける中で、その辛さから死を望むようになられ、主治医でないインターネットで知り合った2人の医師に依頼したと7月23日に報道されています。ALS患者さんが死にたいと関係者に吐露し依頼することは珍しいことではなく、患者さんの思いや行為を非難することはできません。
報道から考えうる問題は、主治医でない医師2名が患者さんの依頼を受け、金銭を受領し、偽名で患者さん宅を訪問して大量の睡眠薬を胃ろうから投与して殺害したことです。このことについては医療倫理に背く行為であり、二度とあってはならないことです。
当協会は1986年にALS患者が人としての尊厳を全うできる社会を目指して設立され、これまで患者家族の交流と助け合いを行い、国への療養環境の整備の働きかけや治療研究の促進を取組んできました。その後、医療や福祉関係、国等の社会的理解が進み、ALS等の神経難病の療養環境は改善されつつあり、現在は、人工呼吸器を着けた重症患者でも外出や社会参加ができ、長期に生きられる道が開かれています。
しかしながら、まだ社会的介護保障の格差などの課題や、病気の進行を止める治療法がまだ確立されていないことから、病気進行に伴う精神的な苦痛や制度支援が追いつかない課題もあります。
ALSの病気進行に対して医療者や福祉関係、支援者が当事者に寄り添い支援していくことが必要で、これまでALSで生じた悲しい出来事は患者が社会的に孤立した状況で起きています。
当協会はこれまで「尊厳死」の法制化に賛成できない旨の声明を出したことがあります。また今回の事件で報じられている薬物による死を早める「安楽死」に関して、個人としての意見はあっても協会組織として認めておりません。
ALSは人工呼吸器を装着すれば長期に生きられることから、呼吸筋麻痺をもって必ずしも「終末期」と言えません。日本医師会の「医師の職業倫理指針 第3版」(2016年)でもALSに関してはそのような言及がみられます。
また厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(2018年)でも記されておりますが、医療・ケア行為の開始・不開始、医療・ケア内容の変更、医療・ケア行為の中止等は、患者本人の意思を第一に尊重しながら医療・ケアチームで対応することが提示されています。
今回のような事件が再び起きないよう、ご理解とご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
以上
2020年7月27日
一般社団法人 日本ALS協会
会長 嶋守 恵之