支援者インタビュー

当事者の声を反映した難病対策地域協議会に/小倉朗子、小川一江


東京都医学総合研究所プロジェクト研究員 小倉朗子
東京都難病医療専門員 小川一枝

現在、難病法による「難病の患者に対する医療等の総合的な推進を図るための基本的な方針」が検討されており、2015年秋以降に施行予定です。その中で在宅療養支援のポイントとなる保健所を中心とした難病対策地域協議会等について難病保健対策に詳しい小倉さん、小川さんにお話をうかがいました。

難病対策地域協議会 小倉朗子 小川一江

─今のお仕事と難病対策の関わりについて簡単にお聞かせください。

小川:今は東京都医学総合研究所で平成23年から東京都神経難病医療ネットワーク事業を受託し、難病医療専門員(保健師)として4年余り、今度5年目です。昭和63年から東京都の保健所に勤務し、平成19年に退職。その前の3年間は都立神経病院の地域療養支援室、在宅訪問診療を担当していました。

小倉:東京都医学総合研究所の難病ケア看護プロジェクト研究員で保健師、看護師です。平成14、15年頃から国の厚労科学研究班で難病の保健に係わってきており、継続しています。

─難病法(32条)で保健所を中心とした「難病対策地域協議会の設置」が示されています。保健所や 保健師の役割、協議会設置についてご意見をお聞かせください。

小川:保健所や保健師は難病に限らず、いろいろな健康問題に関わる所です。難病だけではなく、障がいや地域包括ケアにも係るし、トータルで難病療養者への施策、サービスの向上などを行政として動かせる、動かす役割があると考えています。 今回の法制定の検討のなかで地域の難病患者さんを支援するネットワークを作るには保健所を中心に協議会を置くほうが適切だということであのような表現が盛り込まれたと理解しています。

小倉:今までは保健師は地域保健法でその活動が位置づけられていましたが、難病対策事業実施状況にはかなり相違があり、全国での取り組みにもバラつきがあったと思います。今回、法制化により協議会を活用して、地域の患者の方々がより住みやすくなるように、体制を整えていくことになりました。特に保健師がケアシステムをきちんと整えていくという役割を持って、手段として協議会を位置づけて活用し、難病医療支援体制作りに取り組んでいただきたいと思います。

小川:協議会自体を置くことに目標があるのではなく、協議会をうまく運用・運営するために地域の実情をきちんと把握する、地域の患者の支援をするという機会にしていくことが大切と思います。協議会が法律のなかで明確に位置づけられたことによって、難病に手を付けられなかった保健所も動かざるを得ない状況になっています。難病保健にとっては 追い風になっています。それを裏付けるような活動支援がないと、会議だけを開いて終わりになり、形骸化してしまうおそれがあります。

難病法 第32条 難病対策地域協議会
都道府県、保健所を設置する市及び特別区は、単独で又は共同して、難病の患者への支援の体制の整備を図るため、関係機関、関係団体並びに難病の患者及びその家族並びに難病の患者に対する医療又は難 病の患者の福祉、教育若しくは雇用に関連する職務 に従事する者その他の関係者により構成される難病対策地域協議会を置くように努めるものとする。

─現在、保健所では難病対策はどのように位置づけられているのでしょうか?

小倉:地域保健法では母子保健のような身近なサービスは市町村、保健所は専門的、広域的、先駆的なもの、例えば難病、感染症、精神などを担当します。県型の保健所で難病が位置づけられています。ただ政令指定都市や特別区は、母子などの身近なサービスから、難病、精神まですべて担当しなくてはいけないので、限られたキャパシティの中では、緊急性の高いものを優先せざるを得ません。特に介護保険制度ができてからは、介護保険被保険者に該当するとケアマネージャーを利用できます。以前は保健師が動いてきたものを、今はケアマネが行っている面があります。保健所と難病の関係は地域保健法(第6条第11項)に示されています。

地域保健法 第3章 保健所
第6条 保健所は、次に掲げる事項につき、企画、調整、 指導及びこれらに必要な事業を行う。
十一.治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病により長期に療養を必要とする者の保健に関する事項

保健所と保健師さんの役割とは?
保健所は、難病患者さんやその家族へ総合的な支援を行う行政機関です。病気に関する講演会や勉強会等の実施、難病で療養する患者さんが地域で安心して療養できるような地域作りに努めています。地域により名称(「保健センター」「保健相談所」等という所もある)や部署の設置等が異なります。 保健所の保健師さんは、在宅療養中の患者さんが安心して療養生活を送れるように、家庭訪問や電話、所内での面談などにより家庭での療養上の相談に応じてくれる難病患者さんにとって身近な存在です。 ALSと診断を受けた方は、ケアマネさんの他、 ご自分の居住地域の担当保健師さんと面識を持つことも大切です。

─2015年3月に皆さんがまとめられた「保健所保健師の役割」に関する分担研究報告書(平成26年度厚生労働科学研究費補助金研究事業)の中の「協議会、難病事業、保健活動体制等の実態把握調査」で分かったことや課題にはどのようなことがありますか?

小倉:難病対策地域協議会に該当するような会議体の実施状況は、都道府県型の保健所が5割超、特別区や政令指定都市は約2割です。まだ充分ではありません。 協議会を開催するのが目的ではなく、会議を活用して地域を作っていくという役割が必要で、その会議できちんと協議がなされ、決められることで地域が変わっていかないと意味がありません。その会議を意味のあるものにするためには、保健師が地域の中で活動して、その状況を把握し、地域の課題や成果を会議で採り上げる必要があります。そのためには、もともと保健師が活動のために利用できる、難病特別対策推進事業の「難病患者地域支援対策推進事業」の「訪問相談事業」や、「在宅療養支 援計画策定・評価事業」などが適切に実施されなければいけません。また、それを実施できる保健師の人材育成、活動できる体制が必須です。

─効果的な難病対策地域協議会にするために、当事者団体に望まれることは?

小川:法に当事者団体の方の協議会の参加が書かれていますが、会議の中に誰かメンバーが入っていればいいということではありません。声を出せない患者さん達がいるところまで目配りして、困っている人の声を把握してこそ意味があります。患者さんは会議の席に座ることが目的ではなくて、その地域に住む難病の患者さんの声を協議会に反映することが 大切です。協議会だけではなくて、その前の段階で意見交換する場があってもいいと思います。

─おっしゃるように私たち当事者団体も住み慣れた地域で必要な時に必要なケアが受けられる総合的な地域支援体制を保健師・保健所を中心につくっていく必要があります。取り組みなどでアドバイス等 がありましたらお聞かせください。

小川:「協議会」という言葉が法律に記載されたことで、今まで動きがわからなかった地域や、難病にももう少し取り組もうというところが出てくるはずです。その時に、患者として保健師さん達に教えて欲しい、声を届けてほしい、まずそこからではないでしょうか。保健師も力量の差があります。保健師を育てようという目をもっていただき、互いに協力して、手を取り合って相談できる体制など、働きかけていくといいのではないでしょうか。 すぐに結果は出ないでしょうが、3〜5年後には患者さんにとってよい共同体制が整うと思います。今回は保健師にとって、「難病の保健活動における保健師のアイデンティティ」を明確にする重要な機会になると思います。

小倉:保健師は個別の患者Aさんに関わるだけではなく、Aさん、Bさん、Cさんが住んでいる各地域を住みやすい地域にしようという役割を担っています。看護師やケアマネと大きく異なっているのはこの点で、どんなに優秀な医療機関でも担えない行政としての役割があるわけです。住んでいる市町村での格差があり、同じ状態の患者でもある地域に帰るとうまくいくけれども、他の地域ではうまくいかないということがあります。地域の力によるところが大きくなります。 保健師が担っている役割を今まで感じてもらうことが多くなかったかもしれませんが、そこをぜひ期待してほしいという個人的な気持ちがあります。

(2015年8月発行の機関誌「JALSA」96号から転載)

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